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サイクル ロードレース コラム2021年4月14日
作曲家・梶浦由記さん流サイクルロードレースを気軽に楽しむ3つのヒント《景色》《ながら見》《SNS》
サイクルロードレースレポート by
J SPORTS 編集部0
数々の名曲を世に送り出している梶浦さん(左)
アニメ作品の劇伴音楽をはじめ、映画やミュージカルなど、幅広いジャンルの音楽をプロデュースし続ける作曲家・梶浦由記さん。大ヒット映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌「炎」も彼女によって生み落とされた作品の一つ(作詞・作曲・編曲 *作詞はLisaさんと共作)。聴く者を別世界に誘い、圧倒的な没入間を与える彼女の音楽は、日本にとどまらず世界で高く評価されている。
そんな梶浦由記さんといえば、知る人ぞ知る、古参のサイクルロードレースファン。《イベント・実況用別アカウント》として開設されたTwitterの裏アカでは「ロードレースシーズンはツイートがかなり増えますすみません……」(プロフィール欄記載)との本人の宣言通り、タイムラインはほぼサイクルロードレースに関する呟き一色。眺めているだけで、梶浦さんのサイクルロードレース愛が伝わってくる。
あるとき、そんな梶浦さんの何気ない呟きを発見したのが、番組実況でおなじみのサッシャさん。ラジオDJも務めるサッシャさんだけに、もちろん作曲家の梶浦さんもフォローしており、レース実況中に彼女の呟きを発見してビックリ。そんな経緯で実現した今回のインタビュー企画。梶浦さんの言葉には、サイクルロードレースを楽しむヒントが詰まっていました。
きっかけは『弱虫ペダル』で、推しはフルーム
欧州で高い人気を誇るサイクルロードレース。なかでもフランス全土を舞台に21日間で争われるツール・ド・フランスは、夏季五輪、サッカーワールドカップに次ぐ世界最大級のメガスポーツイベント。平坦路だけでなく、険しい山道や未舗装のデコボコ道など、選手たちは自らの脚で、長いときでは200kmを超える道のりを走破していくのである。想像を超える選手のアスリート性はもちろん、息を飲む心理性や駆け引き、はたまたサイクルロードレース独特の美しき精神性や人間ドラマに多くのファンが魅了されている。
ツール・ド・フランスの他にも、国土全体を舞台に、21日間で競い合う過酷な大会が2つ存在する。イタリアを舞台としたジロ・デ・イタリア、スペインを舞台としたブエルタ・ア・エスパーニャがそれであり、いずれも世界中の注目を集め、選手にとっては出場することだけでも意義がある檜舞台と言える(今シーズン、J SPORTSではこれら3つの大会「通称:グランツール」を独占生中継&LIVE配信でお届けする)。
梶浦さんも、そんなツール・ド・フランスをきっかけに、サイクルロードレースに魅了された一人。
「若い頃にツール・ド・フランスを観るのがちょっと流行ったんです。ちょっとオシャレみたいな感じで。観なくなってからもう一度観るようになったきっかけは、やっぱり『弱虫ペダル』ですね。面白いと思って読んでいて、そういえば昔ツール・ド・フランス観てたなと思って、探してみたら今も放送されていた。すごく久しぶりだなと思って観てたらやっぱり面白くて、ちょっと観ているうちにクリス・フルームが素晴らしい活躍をされて、(夢中になっていった要因は)フルームに出会ったのがきっかけだったのかな」(梶浦)
梶浦さんが大切にするフルームのサイン入りポスター(実物)
フルーム推しを公言する梶浦さん。作業部屋には自ら2時間半も列に並んでゲットした《家宝》として大切にする直筆サイン入りポスターが額縁に入れられて飾られている。
フルームは、先に説明した3つの大会全てで優勝し、ツール・ド・フランスでは4度の優勝を誇る現役最強の実績を誇るレーサー。100年を超える自転車史の中でも指折りの名選手であり、一時代を築いた。愛らしい笑顔が特徴的で、イギリス人らしい紳士振りが多くのファンを魅了している。
クリス・フルーム
「たぶん私、クールな人が好きなんだと思うんです。あまり熱くならないで、自分を律して、ちゃんと相手を祝福できるタイプの人。いわゆる紳士な人ですね」とフルーム好きの理由を説明し、フルームがツールで5勝目を挙げたあかつきには「銅像くらい建てますよ」と笑った。
ヨーロッパの田舎町の風景が大好き
サイクルロードレースの魅力について聞かれた梶浦さんの最初の回答は《景色》。サイクルロードレースの大きな大会では、地上からのカメラの他に、空撮映像でレースの模様を届けてくれる。それゆえ、観光ではなかなか足を踏み入れることのない、古き良きヨーロッパの美しい景観や絶景を映像で楽しむことができるのだ。
のどかなヨーロッパの田園風景
「昔6年ほどドイツに住んでいたことがあって、その時に父親がものすごい旅行好きで、おまけに運転するのが大好きで、どこ行くのも車だった。だから、割とヨーロッパの田舎をドライブすることが多くて、子どもの頃からヨーロッパのなにもない田舎の街の景色がすごく好きでした。小さな村から森や草原の中に入っていく。また小さな村が出てきて、教会の鐘の音が響いている。その景色が子ども心に大好きだったんです。大人になって、海外旅行に行っても実際そういったところには中々行けないけれど、ツールを見たときに『これだ〜』と思ったんです。おまけに、無理だと分かっていても、自転車だと自分も走れるような気になっていく(笑)。自分も良い匂いのする田舎街を風を切って走っているんじゃないかという錯覚がして、とても気持ち良いんですよね」(梶浦)
番組で実況を務めるサッシャさんは、空撮映像で映し出されるお城や教会などを丁寧に解説することでもお馴染み。梶浦さんもサッシャさんの解説を楽しみにしている視聴者の一人。
「画面の中に映ったことを紹介しないのが、自分の中で違和感があるんです。映っているのに、これはなんだろうと過ぎ去っていくのが自分の中で許せなくて、そうやって言っていただける人がいると嬉しい。興味の入り口としていきなりレースを見るのはハードルが高い。だから、景色から入ってくれて、結果的に競技自体が面白いと気づいてくれる方がいたら本望」(サッシャ)
ながら見でもOK!SNSを通じてみんなで見る楽しみ方
長いときでは1レース5時間を超えることも珍しくないサイクルロードレース。多忙を極める梶浦さんだけに、なかなか長時間の連続視聴は難しいのが現実。おそらく同様の悩みを抱えている視聴者も少なくないだろう。しかし、梶浦さんはそんなサイクルロードレースを「大人に優しいスポーツ」と表現する。
「正直、仕事しているときはずっと見ていられないので、申し訳ないですけど音を落として映像だけ映していたりするんですけど、仕事しながらチラッと見たときに、次の森に行って、また次の街に行ってと、それだけを見ていても気持ち良い。割とそんな申し訳ない見方をしているんですけど、それでも結構追えたりしていて、他のスポーツって案外《ながら見》ってできない。サッカーとか野球って、点が入ったところを見ていないと『観てた意味あった?』って気持ちにちょっとなっちゃう。でも、ロードレースでは割と気を散らしても許されるので、大人に優しいというか。今の自分のライフスタイルに嵌ったんだなと思います」(梶浦)
冒頭でも説明したように、Twitterの裏アカで超頻繁にサイクルロードレースに関する呟きを投稿している梶浦さん。「SNS時代で一番良かったなと思うことは、みんなで見ている感覚がすごく強いこと」だと言う。
「昔は完全に一人で見ていた。あの頃は一人で楽しむものだったけど、今はTwitterでいろんな方が意見をいったりしていて、私もまだまだ分からない事も多いんですけれど、中継を聞き逃してしまった所もどなたかが説明をしてくれていたりもして。みんなでワイワイ見ている感じが楽しい。タイムラインがバーっと動いたときはなんか起きたぞみたいな(笑)」(梶浦)
サイクルロードレースファン仲間
対談の様子
サイクルロードレースファンが待ち望む、今シーズン最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアは5月8日に幕を開ける。
「イタリアの風景とフランスの風景は全然違いますよね。特にジロは春がまだ浅いので、新緑がきれいだったり、山には残雪もあったり。遺跡も多いですからね。時代が古過ぎませんか?こんなところにそんな大事なものがあっていいんですか?みたいな、そんなものが次から次へと出てくるので、見ているだけでもすごく面白い。初めてツールを走るような若い選手がピュンと出てくるイメージもあるので、レース自体も若くて荒々しいイメージがありますね」(梶浦)
SNSを通じて「バーチャルで梶浦さんと一緒にロードレースを見ましょう」とサッシャさんが呼びかけると「まだご覧になったことのない方がそういったことをきっかけに見てくれるならすごく嬉しい。私の音楽ファンの方にも自転車レースのファンの方がいらっしゃって、そういう方に絡んでいただけるとすごく嬉しい。《仲間》という気持ちです」と笑顔で話してくれた。
稀代の作曲家・梶浦由記さん。聴き惚れる名曲の生みの親と聞けばどこか雲の上の存在にも思えてしまうが、サイクルロードレースファン仲間としての彼女は、どこか身近な存在に感じられた。SNSを通じて届けられる生身の言葉からは、歌詞やメロディーからは味わえない梶浦さんの魅力が溢れている。
みなさんも、梶浦さんと一緒にサイクルロードレースに魅了されてみませんか?
文:J SPORTS編集部