初めて言葉を交わしたのはJUNNAさんのライブ後。石川さんはJUNNAさんからの第一声にビックリ!?
──まず、お二人が初めてお会いした時のエピソードをお聞かせください。
石川智晶さん(以下、石川):先日、JUNNAさんのライブに行かせていただいて、終わった後に楽屋にお伺いしたのが初めてでした。実は今回のTVアニメ『魔法使いの嫁 SEASON2』第2クールOPテーマの楽曲制作のお話をいただいたのが去年の9月くらいで、その時はどなたが歌うのかは決まっていませんでした。
JUNNAさん(以下、JUNNA):今回の楽曲を作っていただく前に、「我は小説よりも奇なり」(2ndアルバム『20×20』リード曲)の作詞をしていただきましたが、その時はお会いできず、出来上がった歌詞をいただいたので、ライブでお会いすることができてとても嬉しかったです。実は私も石川さんのステージを拝見させていただいたことがあって。2019年に行われた『犬フェス!』にワルキューレのメンバーとして参加させていただいた時に石川さんも出演されていて。
石川:そういえばごあいさつしていただいた気がする。でもたくさんの方と一緒にいらっしゃったし、たぶん前列にはいなかったですよね?
JUNNA:私はメンバーの後ろにちょこんといて、お姉さんメンバーたちにあいさつしていただいて、「私も一員です」みたいな感じで(笑)。なので1対1ではちゃんとお話しできていなくて、私のライブに来ていただいた後にお会いできたのが初めてだったので、緊張しました。ライブ前に今日、石川さんが来てくださるとスタッフさんから聞いていたので、ドキドキしていました。でも実際にお会いしたら優しくて、温かくて一気に緊張感が解けました。
──石川さんが実際にライブでご覧になったJUNNAさんの印象はいかがでしたか?
石川:ライブで見る前もJUNNAさんの楽曲を聴いていて、歌がうまいのは知っていましたが、アスリートのような歌い方で。3時間という長時間のステージで途切れないし、息遣いも乱れず、その上、ダンスまでなさっていて、その体力とエネルギーは圧巻でビックリしました。歌をちゃんといただけたなという満足感でした。
──そんなすごいパフォーマンスをしていた人がステージを降りて会ってみたら?
石川:楽屋裏でお会いして、「初めまして」というあいさつの後、すぐに「(「眠らされたリネージュ」は)すごい難しかったです!」と。そんなことを言われた私も「難しかったんかい!」と思いつつ、「申し訳なかったな。」という気持ちにもなって。ライブ直後だったので「きっと正直な気持ちなんだろうな」と思いながら帰りました(笑)。
JUNNA:ここまでいろいろな曲を歌わせていただきましたが、一番大変だったと思えるくらい、すごく難しい曲だったので、つい想いのまま気持ちをお伝えしてしまいました(笑)。
──改めてお互いのアーティストとしての印象や魅力を感じる点をお聞かせください。
JUNNA:石川さんにしか作れない世界、歌えない曲を作られる方だなと思っています。石川さんが歌ってくださった「眠らされたリネージュ」の仮歌を聴いた時、「ヤバいな」と思ったのと同時に、「この曲をどう歌おうか」とこれほど悩んだこともなくて。そんな私の気持ちをプロデューサーさんが読み取ってくださって、「まずは石川さんの仮歌をそっくりマネできるくらいになってください。それができたらそこに自分らしさを少しずつ加味していって」と言われました。それくらい難しい曲だということも、私が苦戦するであろうこともきっとわかってくださっていたんでしょうね。私自身も石川さんが作られる世界観を大切にすることが求められていて、それが100%出せた時にこの曲が最大限にいいものになるはずだと理解できました。
石川:今のボーカリストの人にはない歌い方をされているなと。私の曲をドラマティックに歌ってくださる方であり、すべてを預けられる方だなと思いました。私が楽曲提供をする時はデモテープに私の声が入っているので、それをある程度、マネしてしまうという部分もあると思います。でもJUNNAさんは全然マネではなくて。JUNNAさんの中にはたぶん独特の自分のリズムがあって、どんな曲でも自分のほうにハンドルを切れる人だと思うんです。そういう方は私がこれまで楽曲提供させていただいた方の中でも3人くらいしかいなくて、その3人目はJUNNAさんで、自分の中にしっかり落とし込むことが大切だと思うので、この曲をJUNNAさんに歌ってもらえたことは喜びしかありません。
石川さんはJUNNAさんが歌うと信じて作った「眠らされたリネージュ」。プロデューサーからの熱烈なオーダーなど今明かされる楽曲制作秘話!?
──JUNNAさんにとってはこんなに嬉しい言葉はありませんね。
JUNNA:すごく嬉しいです!
石川:TVアニメ『魔法使いの嫁 SEASON2』第2クールのOPテーマの作詞・作曲のお話をいただいた時、まだ歌い手は決まっていなかったとお話ししましたが、JUNNAさんがSEASON1のOPテーマ「Here」とSEASON2第1クールのOPテーマ「Dear」を担当されていたので、きっとJUNNAさんが歌うんだろうなと思って作り始めたら、まだ決まっていないと聞かされて「どうするの?」と。もしJUNNAさんじゃなければ、少し手直ししないといけないなと思いました。例えば歌詞を少し丸くしたり、歌いやすさを追求したでしょうね。でも「歌うのは絶対、JUNNAさん」と念力で引き寄せるつもりで。決まらないまま、曲の制作だけどんどん進んでいったので。結果的にJUNNAさんに決まって良かったです。
この流れでもう一つ。曲が段々、難しくなったのはプロデューサーさんによるもので。最初に曲を提出したら「これじゃ足りない。僕は石川さんのもっとすごいのを求めているので。もっと壊れる感じで」と言われて、例として私の曲名を次々に挙げてきたけど、「同じ曲は作れないよ」と(笑)。サビも「もうちょっと変えて」と言われたから、より難解にして。だから難しくなったのは私のせいじゃないことを伝えたいです。
JUNNA:プロデューサーさんが原因なんですね(笑)。
石川:さっき謝りに来たの。「僕のせいでした」って(笑)。
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──石川さんにプレッシャーをかけるプロデューサーさん。。。
石川:本当にプレッシャーかけられて。ある時はバス停で待っていたら電話がかかってきて「サビはもうちょっといきたいんですよね」と言われて、私もその場でちょっと歌ってみて。「これでどう? 結構難解だよ?」と言ったら、「じゃあ、それで」って。「これを誰が歌えるの?」と思いました。
──最高傑作を作れと言われているようなものですね。
石川:でも「壊れそうで、精神が崩壊するくらい」というベースがあって、そこにはまだ行き切れていないということで、更に構築を繰り返し、やり直したらすごい曲になってしまいました(笑)。キーも上がったしね。
JUNNA:そうですね。キー合わせをした時、「キーを上げよう」と言われたので、「本当ですか!?」と思わず、聞き返してしまいました。
石川:かわいそうと思って、私はキーを下げたのに、いつの間にかキーが上がっていて。「JUNNAなら歌えるから大丈夫ですよ」とスタッフみんなが言うんです。
JUNNA:容赦ないんです(笑)。
石川:優しさプリーズだよね。
JUNNA:本当に(笑)。
「眠らされたリネージュ」はフィロメラの気持ちに特化し、“かわいそう”に振り切り!?
──石川さんは「眠らされたリネージュ」の作詞・作曲を担当されていますが、アニメ制作側からどんなオーダーがあり、どのようなテーマやイメージで制作されたのでしょうか?
石川:アニメの主人公のチセではなくて、フィロメラの気持ちに特化してほしいとも言われていました。フィロメラは幼い頃から愛されずに、いろいろなストレスを抱えながら生きているので、「かわいそうでいいので、振り切ってください」と言われて、「また来たか。こういうのが」と(笑)。そして原作コミック全巻が送られてきて、1カ月しっかり読み込んで。結局、曲の制作期間は3カ月くらいかかって、昔に戻ったような感覚でした。昔は制作側から何度も書き直しを求められることも多くて。今回は戻されることも直接オーダーされることもなかったけど、原作の編集サイドの皆さんには確固たるビジョンがあるように感じました。
JUNNA:私はそういう裏側を何も知らずに、ひたすらレコーディングしてました(笑)。
──JUNNAさんが歌ってきた他の『魔法使いの嫁』のOPテーマとはまったく違う曲になっていますよね。
JUNNA:「Here」と「Dear」はタイトルを見ていただければおわかりいただけると思うのですが対になる曲で、チセが主人公であり、この歌詞のメインでもあるという形で作っていきました。「Here」をリリースした時は私がデビューしたてだったこともあり、チセとわかりあえる部分も多かったので、チセと私の想いを背負いながら歌っていて、「Dear」ではもっと成長したチセを表現しようと挑んだ曲だったので2曲がセットのように考えていました。「眠らされたリネージュ」は曲の方向性も歌詞の主人公も変わっているので、アニメもここから雰囲気がガラっと変わって、展開も変わっていくんだろうなと曲を聴いてひしひしと感じました。
──JUNNAさんの歌い方も曲頭からおどろおどろしい感じで、曲中で歌い方も変わっていて。歌い手として複雑な曲ですね。
JUNNA:大変でした(笑)。「Here」と「Dear」は深い声も使わずに、ストレートに今の自分の歌声をぶつける感じでしたが、「眠らされたリネージュ」は何かにおびえているような、不安に思っている様子を声で全面にぶつけていく楽曲だったので、歌声の雰囲気もガラっと変わっていると思います。
──「Here」と「Dear」で作曲・編曲を担当されている白戸佑輔さんがこの曲のアレンジを担当されていますね。
石川:私がアレンジまでやってしまうと、ここまでの『魔法使いの嫁』の流れを変えてしまう気がして、JUNNAさんのこともよくわかっている白戸さんに任せたほうがいいのかなと。私は劇的な感じにやりたくて、やや宝塚っぽくてもいい、みたいに思っていました。アクションも多いし、感情面でも大きく動くターンなので、そこまでやってもいいのかなという提案をさせていただきましたが、白戸さんがその想像の斜め上を更に行ってくれて。作曲面に関しては白戸さんが半分以上やってくれている感覚で、世界観を完結させてくれてありがたいです。
──「Here」と「Dear」では使われていたギターやカスタネットが使われてスパニッシュな香りも感じましたが、この曲でもスパニッシュさを感じました。
JUNNA:「眠らされたリネージュ」が、ギターの音色などから「Here」や「Dear」と通じるものがあるように感じるとおっしゃいましたが、レコーディングでよく言われたのが「タンゴのリズムを大切に」で。「ここのリズムは絶対にはずさないで」というポイントが結構多くて、普段はあまり言われることがないので、プロデューサーさんが絶対に世界観を壊したくないんだなという想いが伝わってきたので、私も意識しながら歌いました。
──レコーディング後、アレンジも終わって完成した音源を聴いた感想は?
石川:待ちに待ってました! という感じでした。この曲のプロジェクトから始まってから1年くらい経っていたので、スタッフ全員と拍手してハイタッチし合いました(笑)。歌詞にすべてを込めたことで手応えもあったけど、込め過ぎてしまっている部分もあるので、レコーディングで体調が悪かったら苦戦するかもと思いながらも、「JUNNAさんなら大丈夫」と信頼していました。完成音源を聴いたら、更にパワーアップしている感じがしました。私が1人で血圧を上げながらデモテープを作った時よりはもっと上を行ってくれたので、「よくやってくれたな。ありがたいな」と今回は本当に感謝です。
JUNNA:私は完成して良かったなとホッとしました。方向性を定めるまで時間がかかった曲で、特に1コーラス目は「こことここの差をどう見せるか」とか「どこからもっとエモーショナルにしていくか」など、すごく考えながらやっていたので、フルコーラスで聴いた時、自分がやりたいと思って表現したことがちゃんと出ていたし、ちゃんとストーリーが1つにまとまっている気がしたので、安心しました。既にサビはアニメのPVなどで聴いていただいていますが、YouTubeのコメントで「ヤバいぞ!」など肯定的なことを皆さんが書いてくれていたので、すごく嬉しかったです。アニメのお話が進んでいく中で作品に寄り添っている楽曲であることをより実感していただけると思うし、SEASON2第2クールの最後を見た時に納得感と満足感をいっそう感じていただけるのではないかなと思っています。
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──お話ししていただいた他に「眠らされたリネージュ」の聞きどころや注目ポイントがありましたらお聞かせください。
石川:JUNNAさんが歌う世界観が、最後のエンディングに向かって更に爆発して、一つの物語を作っている感じがするので、アニメと一緒に楽しんでいただきつつ、しっかりフルサイズで聴いていただきたいです。
JUNNA:特に好きで、こだわったところはサビの最後の「あなたの残り火を消せるのは私だけ」です。曲中で3回出てきますが、歌い分けを意識しながら歌っていたので、フルで聴いていただいて、どんどん感情が高ぶっていく感じを受け取っていただけたらと思います。
──MVも撮影されているそうですが、どんな撮影だったのでしょうか?
JUNNA:大人な感じでしょうか?(笑) ギターがとても印象的な曲ですが、レコーディングでギターを弾いてくださった黒田晃年さんも出演してくださって、ギターを弾いている横で歌っているシーンもあります。また私の周りに200本以上のキャンドルが置いてある幻想的な空間で歌ったりして。今までは「Here」や「Dear」のように海で歌ったり、風に吹かれたりする中でパーッと広がるイメージのMVでしたが、今回は閉じた空間で大人っぽく歌っている感じです。
カップリング曲はJUNNAさんが今歌う歌を収録。先日行われたライブ音源も!?
──シングルの表題曲がこれだけ存在感が大きいので、カップリングにもかなり力を入れられている気がしました。カップリング曲についてもご紹介いただけますでしょうか?
JUNNA:表題曲に左右されず、今、自分が歌いたい曲を収録しています。まず2曲目に収録されている「Unite」が制作されたのはかなり前で、ようやくみんなに届けられるんだという喜びが大きいです。バリバリのロックで、いつもの私らしい楽曲でありつつ、すごいパワーがあるので、ライブで歌うのは難しいだろうなと思いながらレコーディングしたことを覚えています。
──「Unite」はカロリーが高く、カッコいい曲ですね。
JUNNA:そうなんです。特に曲頭のストリングスがめちゃめちゃカッコいいんです! ストリングスのレコーディングにも立ち会わせていただきましたが、「ヤバい!」と鳥肌が立ったし、これから始まるワクワク感もすごくて。ぜひ私のロックとストリングスの融合を楽しんでいただきたいです。
3曲目の「On My Side」は、私のライブでバンマスをしてくださっている島田昌典さんから「ぜひJUNNAちゃんに歌ってほしい曲があるんだけど」と言われて。喜んでお願いししたら「作詞はJUNNAちゃんにやってほしい」と。ツアーが終わった後に歌詞を書き始めましたが、ライブでの自分の想い、みんなとライブで会えたから湧き出してくる想いを込められたらいいなと思いながら書きました。
──この曲をライブの最後で歌われたら、きっと感動してしまうと思います。
JUNNA:島田さんのアレンジも壮大だったので、みんなとの関係性や今後自分が進んでいきたいんだという気持ちを素直に歌えました。
──ライブ音源も収録されているんですね。
JUNNA:先日行われたツアー『JUNNA ROCK YOU TOUR 2023 ~Dear...~』の最終公演から、初回限定盤には私がギターの弾き語りをした「CONTRAST -LIVE 2023 Ver.-」が、通常盤には「Dear -LIVE 2023 Ver.-」が収録されています。そして初回限定盤には『JUNNA ROCK YOU TOUR 2023~Dear…~』のライブ映像が収録されたBDもありますので、ぜひ見ていただきたいです。
──お二人はライブを控えていますが、ライブの構想や意気込みなどお聞かせください。まず石川さんが11月11日に行うライブ「ブランエノワールに沈む」についてお願いします。
石川:私のライブはアートを舞台に出すステージをやっていて、そのテーマを毎回変えています。今回もその延長線上になります。私の中にイメージがある状態で、アートを作ってくれる人にそのアイデアを投げて。ある意味で作曲するのと同じですね。
──シンガーソングライターの石川さんだからこそ、頭に浮かんだアイデアやイメージが明確で、それを伝えることも長けていらっしゃると思うので、一緒にライブを作る方々もやりやすいでしょうね。
石川:そうかもしれませんね。ライブに来てくださる方も私のライブスタイルを受け入れてくださって、そういう方が毎回来てくださるという関係性がすっかりできています。
──JUNNAさんは『犬フェス!』で石川さんのパフォーマンスをご覧になられたそうですが、どう感じられましたか?
JUNNA:私はあまり世界観を考えずにライブをするタイプで、「とにかくぶつかっていけ!」みたいな。タイトルも「JUNNA ROCK YOU TOUR」ですし(笑)。でも石川さんのライブパフォーマンスはその世界観にぐっと引き込まれて、浸るような感覚で。新鮮でしたし、とても心地よかったです。
──石川さんはいろいろなフェスにも出演されていますが、どのフェスでも登場すると会場の空気を塗り替えてしまうのがすごいなと。
JUNNA:そうなんです!
石川:トップバッターで出ることはほとんどなくて、だいたい中盤のちょっと空気が落ち着いて、終盤盛り上がる前になることが多くて。イベントをする側とすれば確かにそうなんだろうなと私も思います(笑)。
──そしてJUNNAさんは11月5日に『JUNNA Birthday Live 2023~Trio de 純喫茶~』を控えています。会場はビルボードライブ横浜で、アコースティック編成で、バースデーライブとスペシャル尽くしですね。
JUNNA:ビルボードライブ横浜は、昨年も『JUNNA Acoustic Live Tour 2022 〜「純喫茶」 Birthday Special〜』と題したツアーの中でやらせていただきましたが、『純喫茶』はいつものロックな感じではなく、歌をじっくり聴いていただけたらいいなと思って始めました。定番化できたらいいなと思っていたので、今回もできて嬉しいです。割とカバー曲も多くて、自分の曲と半分ずつくらいですし、私の曲のアレンジも違うので、今までのライブとは違う一面も感じてもらえるかなと思っています」
──食事やお酒をたしなみながら、JUNNAさんの歌に酔う大人の空間ですね。
JUNNA:私は歌謡曲が大好きで、「純喫茶」では「絶対に歌謡曲を歌うぞ」と決めているんですけど、それも大人な雰囲気の空間だからこそ歌えるし、みんなにも落ち着いて聴いていただけるのかなと思っています。自分の曲以外を聴いていただく機会もあまりないので、私自身も楽しみたいです。
──お二人にとってライブのおもしろさややりがいを感じるところとは?
JUNNA:自分の曲を聴いていただくという面では、ライブもCDも変わらないと思うけど、みんなに直接お会いして、同じ空間で歌えて、みんなの反応を見たり、感じられるのはライブしかなくて。ライブで、生でお届けすることで、曲が完成すると思っているので、ライブは私にとって欠かせません。聴いてくれる皆さんの表情や反応を見るのも楽しいし、私もその場でみんなに返せるのはライブしかありません。
石川:ここまで長い間、自分のペースでライブをさせていただいていますが、自然とお客さんとの付き合いも長くなるし、私の心境も変わってきて。若い頃は自分がやりたいことをやっていた気がしますが、今はお客さんへの感謝の気持ちが強くて、毎日、支えられているなと思っているんです。そして、皆さんと会える尊い場所とも考えていて。日常生活の中で友人や家族とあんなに清く付き合えるかといえば、付き合えないと思います。
ステージと客席の間は離れているけど、離れているからこそ曲がった気持ちや横やり、足の引っ張り合いなどがまったくないので、すごくいい場所を与えてもらえたなと。私のライブはちょっとミサ的で、みんな拍手はしてくれるけど、じっと歌や話を聴いてくれるので、私も軽い気持ちで雑談してみたり、より良い関係になっている気がします。みんなの顔色もわかるし、悩みを直接聞いてはいないけど、「今、こんなことを考えているのかな?」とか何となく感じたり。いい形のフレンドシップが築けているのかなと思います。
シンガーとしていつも大切にしていること
──お二人がシンガーとして大切にしていることをお聞かせください。
JUNNA:「ひとりよがりにならないように」といつも考えています。自分がこうしたいという想いも大切だけど、そこにお客さんがいることを絶対に忘れてはいけないなと。お客さんがどんな曲を聴きたいか、どんなパフォーマンスが見たいかを考えたうえで、自分のやりたいことも加えて。ライブは特にそういう気持ちが強いですね。
石川:ステージに立つ意味というのはその時々で違っていて。自分がまだ未熟だった時は「やりたくないな」と思うことがあったり、日々の生活の疲れで、「私みたいなものが立っていいのかな?」とネガティブに考えてしまったり。でも今はふわっとした感じでライブに臨めていて、当日ステージに立つと「やっぱりここに立てて良かった」と思えて。そう思えるのは私の中で「立たないといけない」という小さなお役目みたいなものがあって、お客さんと会うことで言葉になる感じです。
──ライブはご自身の曲を望んでいたり、好きな人がこれだけいるんだと体感できる場所ですよね。
石川:しかも皆さんの大切な時間をいただいているわけで。誰しも時間やお金の使い方を取捨選択していますが、その中に私との時間を入れてくれるということはありがたいことです。だから来てくださった方のために一生懸命歌うのは当たり前のことだと思っています。
──アニメのタイアップを歌うことについて、やりがいを感じる点をお聞かせください。
JUNNA:違う私になれるのがアニメのタイアップ曲をいただいた時かなと思っていて。例えばシングルのカップリング曲やアルバムの収録曲は今、自分が感じていることを歌詞に書いたり、歌うことが多くて、その時は私が曲の主人公になるわけです。アニメのタイアップ曲の場合は、アニメの主人公の視点で歌詞が書かれることが多いので、自分の気持ちだけではなく、そのキャラクターの立場に立って、「この子だったらどう考えるだろう」や「どう歌うのかな?」と考えながら歌わなければいけないですから。違う人になった気持ちを持って歌うことで、いろいろなことが考えれるようになったり、視野も広がったり、新しい発見があったりすることもあります。楽しみながら、もちろん責任感も持ちながら毎回歌わせていただいています。
石川:アニメの楽曲の作詞や作曲をやり始めた時、作品の世界観に沿って作らなければいけないと思いました。当たり前のことですが、それだけなのかと言われれば違って、やはりその楽曲の中の何%かに石川智晶が存在している事に、聴いてくださる方も何となく気付くわけです。だからアニソンってすごいんじゃないかと思うんです。ちょっとしたシンクロ率を聴く人が感覚的に気付いて、自分に落とし込んで感動できるのかなと。
──せっかくの機会ですので、JUNNAさんから石川さんへ質問したいことはありますか?
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JUNNA:「眠らされたリネージュ」の歌詞を初めて読ませていただいた時、「私には絶対、書けない!」と衝撃を受けました。原作を読んでもストーリー上に出てこない言葉もたくさん使われていたり、語彙力のひと言では言い表せない、すごさがあって。石川さんはどのように歌詞を書かれたのでしょうか?
石川:タイアップ曲の場合はまず原作を読みますが、『魔法使いの嫁』を読んだ後、自分でサブストーリーを作るくらいの意識を持つんです。例えばチセになってみようと思ったら、奥の部屋で小さくポットの沸騰する音が聞こえてくる。そうしているうちにフィロメラの髪の毛をといているシーンが浮かんできたり。朝、くしで髪をとかしている時って、違うことを考えることがあるじゃないですか? 「昨日のあのひと言はいったい何だったんだろう?」とか。そういう日常感を入れながら、最後には核心に迫るような、分散させて作ります。ただ悲しい、苦しい、だからどうなったではなく、「部屋の中に入れたらチセはどう思うかな?」とか「振り向いたら月があるかな?」みたいに、ミニチュアの中に歌の主人公を入れてみる感じです。
JUNNA:すごいですね!
石川:ずっとそれをやっていたかも。『機動戦士ガンダム00』の時も自分がコックピットに入ったらどう思うかなと考えたら、熱かったらまず服の一番上のボタンをはずすかなというところから入って。そのやり方のほうが作りやすかったんですよね。
JUNNA:私が作詞する時は「悲しい」とか「苦しい」とか、感情に寄っていきがちで、そのまま書いていったら「結局、何が言いたかったんだろう」と自分で思うことがとても多くて。今のお話をお聞きして、そういう方法もあるんだ!と目からウロコ状態です。
石川:「悲しい」を「悲しい」という言葉を使わずにいかに表現できるのかをどんどん書き出してみたり。
──石川さんは作詞と作曲、両方を担当される場合、歌詞と音が同時に頭の中で流れている感じなのでしょうか?
石川:Aメロは一緒に流れてくることが多いですけど、基本的には最初に歌詞を書いて、それを絶対に崩さずにメロディをのせています。たぶん今回、JUNNAさんが難しかったのは、普通、プロの作詞家さんは歌いやすいように書いて提供するものですが、私の場合は歌詞を最初に書いてしまうので。英語詞ならいっぱいメロディを詰め込めるけど、日本語の場合は限られてしまうじゃないですか? 私はそれが嫌だったので、最初に歌詞を書いて、何とかメロディに入れる形で。だから口の中におかきを入れたような歌いにくさはあると思うけど……。
(全員爆笑)
石川:でも口の可動域が広がるのでいいんじゃないかなと(笑)。
──石川さんはシンガーとしてのレベルが高いので、自分は歌えるけど、他の人が歌ってみると難しいというケースも多いのでは?
石川:でも私も他の方に作っていただいた曲で上達させていただいたと思っています。最初は自分で作っていなくて、他の方に作っていただいた曲をどんどん歌っていくと、人の息遣いや口の開け方から考え方など全然違うということが歌うことでわかるようになるんです。そうして段々、うまくなっていった気がします。
JUNNA:そうなんですね。でも私もそれはわかる気がします。初めて石川さんに作詞していただいた「我は小説よりも奇なり」を初めてデモで聴いた時、とても驚きました。「こんな言葉の当てはめ方もあるんだ!?」って。デモは石川さんご自身が歌われていましたが、息継ぎのタイミングが私とはまったく違っていて。何度も聴き返して、「こういう歌い方をすればきれいに聴こえるんだな」とめっちゃ研究したのをすごく覚えています。そして、「我は小説よりも奇なり」で石川さんの歌詞を歌ったからこそ、歌詞を歌うという点ではあまり苦戦せずに歌える感覚でした。
石川:それは私も感じました。高めに行く前に速度感を少しゆっくりめにして、ガっと上がっていく息遣いとか。瞬時に吸って歌うというか。
JUNNA:ありがとうございます。
「眠らされたリネージュ」はぜひアニメを見て考察を!
──お二人が今後挑戦してみたいことや展望などありましたらお聞かせください。
石川:私は特に(笑)。今まで通りにできればいいです。いかに楽しくご飯を食べるか、みたいな(笑)。音楽制作に入ると、ぐっと集中しないといけないので、普段はよりリラックスする方向で、「楽しいことって何かな?」と。
JUNNA:私は47都道府県ツアーをやりたいですと勝手に言っています(笑)。
──でもあの激しいパフォーマンスで長期のツアーをまわるのは大変そうですね。
JUNNA:いつものパフォーマンスやスタイルでやるのかはわかりません。例えば「純喫茶」でまわるとか。いつもライブやツアーで訪れるのは東名阪が中心になってしまいがちで、みんながそれ以外の遠くから来てくれているのも知っているので、今度は私のほうからみんなのところへ行って、「ここにも来てくれたんだ!?」と思ってもらえるくらい、みんなと近い距離感でいたいんです。そんなふうにみんなと友達みたいに接することができて、楽しいライブができたらいいなと思っています。
石川:素晴らしい。
──では今回の対談の感想をお聞かせください。
石川:まずJUNNAさんとまたお会いすることができて良かったです。そして「難しい曲だったけど、歌ってくれてありがとう」という感謝の気持ちと、制作過程をお伝えできて嬉しいです(笑)。このようなご縁をいただいたので、私がアーティスト活動を続けている間は、陰ながらではありますが、JUNNAさんを全力で応援し続けていきたいと思います。
JUNNA:そう言っていただいて、とても嬉しいですし、心強いです。今回、石川さんと対談させていただく機会を設けていただいて、ありがたかったです。なかなか1時間みっちりとお話しさせていただけるのはこういう機会じゃないとないと思うので。いろいろと貴重なお話しをしていただけましたし、楽曲制作の裏側まで教えていただいて。私はいつも裏側を知らずにただレコーディングに臨むことが多いので、いろいろなことが起こっていたんだなと(笑)。
そして石川さんに作詞・作曲していただいた曲を歌えることもめったにない貴重なことだと思いますし、難しい曲ではありましたが、次のステップへ連れて行ってもらえた気がします。ありがとうございました。
──今度はステージ上でお二人の共演を見てみたいです。
JUNNA:それは素敵ですね!
石川:私はJUNNAさんのあのパフォーマンスにはついていけないので(笑)。
JUNNA:とんでもないです! いつか実現できたらいいですね。
──最後に皆さんへメッセージをお願いします。
JUNNA:『魔法使いの嫁』SEASON2、第2クールのOPテーマを担当させていただけて光栄です。「眠らされたリネージュ」は今まで歌ってきた『魔法使いの嫁』の楽曲とはがらっと雰囲気が違う曲になっていますので、ぜひ聴いて楽しんでいただけたらと思います。フルで聴いていただきたいのはもちろんですが、アニメのOP映像も素晴らしいものになっていると思うので、アニメと楽曲、合わせて楽しんでください。
石川:『魔法使いの嫁』は本当に素晴らしい作品で、今回の楽曲を作らさせていただいた時はすごく緊張しつつも光栄だなと思いながら制作しました。「眠らされたリネージュ」をJUNNAさんが歌うと決まった時、「ああ、これで完成したな」と思いました。私は作詞作曲に関わらせていただきましたが、誰が作ったのかは重要ではないと思っていて。ボーカルの存在感はとても大きくて。例えるならショートケーキのイチゴみたいなものですが、このイチゴの大きさはとても重要で、私たち作曲している側は大きく運命が変わるほどです。JUNNAさんのボーカル力と素晴らしさをたっぷり堪能していただけたらと思います。
JUNNA:ありがとうございます。また「眠らされたリネージュ」は歌詞を読み解いていく楽しさもある曲で、私もまだ解明できていません。プロデューサーさんとも「ここはこういう意味なのかも」とよく考察し合っています(笑)。
石川:そうなんだ(笑)。
JUNNA:そしてアニメを見進めていくことで、わかってくることもたくさんあると思うので、毎回見終わった後、聴き返してみるのもいいかもしれません。『魔法使いの嫁』とこの曲をいっぱい楽しんでくださいね!
CD情報
【主題歌】TV 魔法使いの嫁 SEASON2 OP「眠らされたリネージュ」/JUNNA 初回限定盤
JUNNA「眠らされたリネージュ」
2023年10月25日発売
初回限定盤(CD+BD) 3,740円(税込)
※BDには『JUNNA ROCK YOU TOUR 2023~Dear...…~』2023年7月19日Zepp DiverCity(TOKYO)公演の模様を収録
通常盤(CD) 1,540円(税込)
発売:フライングドッグ
LIVE情報
石川智晶LIVE「ブランエノワールに沈む」
2023年11月11日(土)東京・大手町三井ホール
16:15開場/17:00開演
『JUNNA Birthday Live 2023 〜Trio de 純喫茶~』
2023年11月5日(日)神奈川・Billboard Live YOKOHAMA
1stステージ 15:30開場/16:30開演
2ndステージ 18:30開場/19:30開演
※上記2公演共、チケットは完売
・石川智晶公式サイト
・JUNNA公式サイト