Interview with Shinji Tanimura about the song Alcira no Hoshi アルシラの星 31 March 2016:
http://mainichi.jp/articles/20160331/dde/012/200/006000c
Interview
谷村新司 不幸広がる現代の「祈り」 新曲「アルシラの星」 カラフィナと国立劇場で
毎日新聞2016年3月31日 東京夕刊
とうとうと流れゆく時間や果てしなく壮大な心象風景を描き出すのは、聴覚だけを刺激する音楽に、意外と力があるものである。しかし、最近のポップスは身の回り半径1メートルくらいで用が足りるラブソングが主流を占める。
もちろん、谷村新司=写真上=は、そんなもったいないことはしない。谷村の音楽は、常に大きい。音楽が受け手の想像力を刺激し、送り手の意図を超えて濃厚なイメージを焼き付けることを知っているのだ。「昴(すばる)」や「サライ」が好例である。
発表したばかりの新曲「アルシラの星」(ユニバーサル)は運命の人との出会いを願う少女と、その願いに応える星のファンタジーを描く、と資料にはある。だが、谷村らしく、どうもそんなに単純ではなさそうだ。
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「アルシラ」とは、全天で太陽の次に明るく輝く恒星、おおいぬ座のシリウスのアラビア語圏の呼び名という。古代エジプトではナイル川の氾濫を知らせる星として親しまれ、死を司(つかさど)る女神イシスに比定される。シリウスもギリシャ語の語源的には「焼き焦がすもの」なので、古代地中海文化の類似性も感じる。つまりタイトルだけでも「おとぎ話」とは、うのみにできないのである。
軽快な曲調は1970年代のアリスのようでもある。が、<夢を追う日々は短く/待つ日々は長く/ゆたかさの意味をたずねると/心を信じよと星が答える>(要旨)という歌詞は、余りに象徴的である。
谷村は「アルシラ=イシス」から何を伝えようとしているのか。
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その答えは、この曲の共演者に、一般には無名に近く、しかし、日本武道館級の会場を常に満員にする女性3人のボーカルユニット「カラフィナ」=同下=を選んだことで推量できるのではないか。「彼女たちは他と一線を画す。自分たちがアジアを目指して夢を追いかけていた頃と同じような熱さと志を感じた。声質が違うのでハーモニー感が不思議な響きを作る」と谷村は絶賛する。
奇才・梶浦由記(ゆき)プロデュースの「カラフィナ」らしく、サウンド感はどこか宗教的で宇宙的である。谷村は当世にあって、最も自らの感覚に近く、しかも現代的な情緒で表現できる歌手を探したのであろう。ある種「巫女(みこ)」的存在として……。
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谷村は「アルシラの星」が物語る「請願と応諾」に強い思念的な意味合いを重ねた。それは不幸が広がる現代に対する真正面からの警鐘に聴こえるのだった。
4年目となった東京・国立劇場大劇場での「ザ・シンガー」コンサートも4月8日から3日間開催する。「もちろん、ゲストは『カラフィナ』。以前よりもドラマ性を高めます」と谷村。BS日テレの人気番組「地球劇場」のCD「ドリーム・ソングズ1」も発売した。加山雄三、森山良子、吉田拓郎らとの夢のような名曲の共演を収めており、売り上げの一部は貧困児童の支援に充てるという。【川崎浩】
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